はじめに
「なぜ、横井こどもクリニックがアレルギーに取り組むのか?それは、院長も家族もアレルギー疾患の患者だからです」
院長自身、年中の頃に国立大蔵病院(現国立成育医療センター)に肺炎で入院、小学校高学年までは気管支喘息発作(急性増悪)に度々苦しみました。幸い喘息を克服した現在でも、数種類のナッツ類に食物アレルギーがあります(40歳になってからアボカドも食べられなくなりました)。
昔はお友達の家でお菓子を頂いても原材料がわからないため、ナッツの誤食に伴う、のどの強いかゆみや腹痛に度々苦しみました。その当時はせっかく頂いたお菓子を吐き出すわけにもいかなかったので、自然と包装紙をポケットに入れる癖が身につき、ナッツが入っていることがわかるとそっと吐き出すようにしていたのが懐かしい思い出です。最近も当直の際に食べたカレーに隠し味としてカシューナッツがかなり入っていたようで、ひどい腹痛に見舞われました。
一方、喘息に関しては、お子様たちと同じく発作の度に吸入をしていましたが、とにかく面倒くさくて、早く終わらせようとだけしていました。その際、吸入液をちょっとずつこぼしたりしたことは、どうぞ前院長の父には内緒にしていただければと思います。
「なぜ、アレルギーで受診すると検査をするのか?それは診断の精度を高め、根拠に基づく対応を提案するためです」
血液検査では、アトピー体質(何らかのアレルギーを引き起こしやすい体質)があるのかを検査し(好酸球の割合や総IgE値)、さらに食物や植物などのアレルゲン(抗原)にアレルギーがあるか(特異的IgE)を調べます。
お子さんの食物アレルギーに関して大切なことは、「妊娠中の食生活が原因ではなく」、「かゆみを伴う湿疹を治した」うえで、「むやみに離乳食を遅らせない」ことです。
血液検査は急性のアレルギーの中でIgEによって起こされるものがどの程度の可能性があるのかを調べるものであり、検査が陰性でも否定したことにはなりません。一方で、IgE値が上昇していても、アレルギー反応を起こさない人もたくさんいます。
主な検査項目は、好酸球(白血球の一種)の数とその割合、貧血の程度、さらに総IgEに加えて、抗原特異的なIgEを13項目程度(1項目で血液0.4mlぐらい必要、病院や検査法により差はあり)まで調べることができます。よく調べるものとしては、卵白、卵黄、オボムコイド、牛乳、カゼイン、小麦、グルテン、ω-5グリアジン、大豆、ダニ、ハウスダスト、TARCが挙げられます。また、吸入系抗原に関しては現在複数の抗原を網羅的に測定するキットもあります。
何をどのような形で何時、召し上がったのか、あるいは接触したのかも重要な手掛かりとなりますので、疑われる食事や食材、イベントなどがある場合には簡単で良いので日誌などをつけていると参考になります。
また、必要に応じて東京都アレルギー疾患医療拠点病院及び専門病院であり、当院の連携医療機関でもある国立成育医療研究センターや慈恵医大第三病院を紹介いたします。
食物アレルギー
「なぜ、食物アレルギーが近年注目されているのか?それは、原因と思われる食物の除去のみが予防方法・治療方法ではないからです。食物アレルギーの正確な診断には、実際に食べてみて確認する食物経口負荷試験(以下、負荷試験)が必要です」
アレルギーとは、繰り返して体内に入ってきたタンパク質に対する免疫の過剰な応答、と定義されます。タンパク質は加熱や発酵によりアレルゲン性が下がりやすい、同じグループでもタンパク量が違う(強力粉>薄力粉、チーズ>バター)などの特徴があります。食物アレルギー(FA)はここ10年で倍増し、卵→牛乳→小麦の順に頻度が多かったのですが最近では木の実類(クルミやカシューナッツなど)が急増しております。木の実類のアレルギーは他と比べて非常に強い症状(アナフィラキシー症状)を示す傾向にあります。
食べたことが無いのになぜ最初の離乳食で反応が出るのか疑問を持たれる保護者も多いです。これは離乳食を始める前にすでにお子さんの体に抗体が産生されているためであり、その理由は、湿疹や皮膚炎により皮膚から抗原感作が起きているからです。また、卵やピーナッツ、人工乳(ミルク)を早めの月齢で開始することがFAの予防につながるとの報告が多くされています。さらに、食材によりお子さんが召し上がるにあたって望ましい時期や加工の程度も異なることも判明しています。いずれにせよ、FA発症予防の重要なポイントは、【(鶏)卵アレルギーの発症予防に関する提言】(日本小児アレルギー学会より)にもある通り、適切なスキンケアを行いスキンコントロールを行った上で、口から(加熱)タンパク質を早めに少量ずつ取ることにあります。
FAの予防や克服において、材料そのものではなく加工食品を利用することは、厳密な医学的根拠に弱い部分があります。しかし、FAと付き合う上で最も大切なことは、日常生活の中で無理なく継続的に経口摂取を行うことであり、当院では現実的なアドバイスをするよう心掛けております。私も自身の子供のFAに関して、現在の考え方とは違った方法を実践した苦い過去があります。結果的には大きな問題はなかったものの、こういった経験からアレルギーに関して精進したいと考えました。
FAは、症状から原因となる食物を疑い診断することが原則であり、離乳食を開始する前に「予防的な意味合いで」血液検査をすることはお勧めできません。検査で特異的なIgEが高かったとしても、食べられる場合も多く、低くてもアレルギー反応が出ることもあります。離乳食を開始し、何らかの症状があった際にはぜひご相談ください。しかし、家族に何らかのアレルギー疾患がある、あるいは離乳食前にすでに湿疹がある、などのアレルギー素因がある場合もあります。1歳未満の食物アレルギーのほとんどは、卵・牛乳・小麦が原因ですが、はじめて食べさせる離乳食に少しでも不安があれば受診していただき、ご家庭で安全に食べられそうな量を食物経口負荷試験を用いて医師と一緒に見つけませんか?
気管支喘息
「なぜ、気管支喘息のコントロールが大切なのか?それは、発作による予定外の受診を減らすので、安心して家族の皆様が暮らせるからです」
気管支喘息の発作(急性増悪)では、「喘鳴」と呼ばれるゼイゼイやヒューヒューといった呼吸音が聞こえ、それを何度も繰り返して気管の壁が硬くなった結果、呼吸の機能が低下します。
ウイルス感染(風邪)やハウスダスト・ダニなどの抗原により気道の炎症が生じますが、3歳未満(特に乳児期)のお子さんでは、喘息発作ではなくウイルス感染により喘鳴が出現しやすく、1度だけの喘鳴で気管支喘息と診断することはできません。また、ゼイゼイがありますと言われたお子さんの胸の音を聞くと、鼻閉や痰による音であり、喘鳴でないこともしばしば経験します。「かぜのお医者さん」であるからこそ、こういった経過を拝見することで、不要な喘息の薬が処方されないようになります。一方で、普段は何ともないのに、走る、大きく笑う、スーパーの野菜コーナーに入る、と急に咳き込んだり、喘息発作が出てしまうお子さんは、気道の過敏性が進んでいると考えられ、治療の適応となります。
喘息発作を繰り返すお子さんの治療には、発作を止める気管支拡張剤の投与と、発作を予防する吸入ステロイド薬(場合により気管支拡張薬との合剤)や抗アレルギー薬の内服があります。どの程度の間隔でどのような発作が出現し、現在はどのような治療を受けているのか、により治療の強度を調整します。私が医師になった頃は気管支喘息発作で入院される患者さんが多いと1日に数人といった状況がありましたが、吸入ステロイド薬の導入により、最近ではあまり見かけなくなりました。なお、いったん予防投与を開始したら、3か月程度は連日予防治療を続けるようにしてください。おおよそ1か月毎の状況を踏まえた上でコントロールが良好であれば治療強度を引き下げていきます。
アトピー性皮膚炎
「なぜ、アトピー性皮膚炎が悪化する前に対応するのか?それは多くの小児アレルギー疾患にアトピー性皮膚炎がつながるからです」
アトピー性皮膚炎では皮膚のバリア機能が低下し、慢性的な皮膚のアレルギー性炎症が存在します。改善と悪化を繰り返すかゆみのある湿疹があり、多くの患者さんはアトピー素因(環境にあるアレルゲンに特異的なIgEを作りやすい体質)を有します。乳幼児期が最も多く、年齢を経るにしたがって多くは改善しますが、思春期には再び増加傾向を示します。
小児期には、皮膚のもっとも外側を覆う皮脂膜や角質細胞にある天然保湿因子なども少ないことから、表皮の水分が蒸発しやすいため、乾燥を防ぐための保湿剤の役割は重要です。一方でアトピー性皮膚炎の発症予防には妊娠中あるいは授乳中のお母さんの食物除去は効果が乏しいとされています。
アトピー性皮膚炎の治療はステロイド剤が中心でありますが、免疫抑制剤の一種であるそのものの使用が目的ではなく、「日常生活に支障が出ない程度までかゆみなどの症状を改善させ、保湿剤をメインとして肌の状態を保つこと」が最終的な目標です。そのためにも、症状が出る前から予防的に治療する「プロアクティブ療法」によって、お子さんの皮膚の状態が良い期間を保護者の方と共に維持していきたいと思います。
さらに、お子様の肌に適切なスキンケアを行った上で、離乳食を遅らせることなく進めていくと食物アレルギーが発症しにくい(予防的効果)ことが最近わかりました。また、アレルギーマーチ(食物アレルギー、気管支喘息、アレルギー性鼻炎などのアレルギー性疾患が異なる時期に次々と発症する)においても、アトピー性皮膚炎のコントロールが良くない期間が長いとそのリスクが上昇することが知られているため、当院ではお子様のスキンケアに積極的に取り組んでおります。
スギ花粉症、アレルギー性鼻炎
「なぜ、スギ花粉症やアレルギー性鼻炎に対する舌下免疫療法が推奨されるのか?それはお子さんの学業や運動、日常生活のパフォーマンスを下げずにすむからです」
舌下免疫療法(SLIT)はアレルゲン免疫療法(減感作療法)の1つで、舌の下にアレルゲンを置きます。SLITのメリットは、治癒の可能性があること、治癒に至らなくとも薬物療法を減らせること、治療を止めた後も効果が持続すること、が挙げられます。
スギ花粉症に対するSLITとして2014年に【シダトレン】が12歳からを対象として発売され、効果を上げてきましたが、液剤で冷蔵保存であるため、その取扱いがやや困難でした。現在は、溶解性の錠剤である【シダキュア】が2017年9月から発売され、より高い抗原量で維持するため治療効果も高く、室温保存なので持ち運びも容易となりました。持続的な効果は治療期間に依存しており、3年間の治療期間で優れた有効性を認めていますが1年間の使用でも改善傾向を認めるとも報告されています。年齢制限はありませんが、当院では小学校入学前のお子さんで5歳くらいの年齢から治療対象としています。花粉シーズン中には、花粉が体内に進入しアレルギー反応が起こることにより体が敏感になっているため、スギ花粉飛散も終了した6月くらいから、治療を開始できる時期となります(スギとダニの両方のアレルギーを持っている方も同じく、6月くらいから治療開始可能となります)。問診後にまずは血液検査を受けていただき、次回の結果説明の後から開始していきます。
(ダニによる通年性の)アレルギー性鼻炎に関しては、その病因の多くを占める通年性の吸入性抗原はハウスダストであり、その中のダニ抗原は全世界に共通する抗原です。また、日本は高温多湿のためにダニ抗原量の多い環境であり、そのダニ抗原によるアレルギー性鼻炎をもつ喘息患者さんではSLIT治療により成人では喘息を改善する効果も認めております(喘息に対する保険適応はありません)。当院では【アシテア】を採用していますが、主な副反応として、舌下の腫脹や掻痒感、咽喉頭掻痒感などがあります。こちらも問診後にまずは血液検査を受けていただき、次回の結果説明の後から開始していきます。